ちょうど1年前、ライブも軒並み中止になり展覧会も映画も延期となっていたGW。暇だったのでカセットテープ棚を作成しました。そして今年も、東京は緊急事態宣言に。またもや暇になり、昨年と同じことをやっていますが、技術的には向上した気がします(当社比)。一連のカセットテープ棚を作るシリーズ?完結編です(長文失礼)。
昨年のお話
昨年の今頃、100本入るカセットテープ棚を2つ作成した時の記録が以下になります。今も使っていますが、やはり完成度(?)には納得できておらず。。。
前回までの反省点と今回のポイントは以下の通り。トリマーを活用して、シンプルでスマートな設計を目指します。目指せ、"Napa Valley" (1回目の始めの文章を参照のこと)。
- 目標である"Napa Valley"のカセットテープ棚に近づけたい。
- 昨年、スピーカーを作った時に購入したトリマーを活用したい。
- 前回、全て4mmシナ合板で作ったので頑丈だが重い。裏板、棚板はもっと薄くて良いはず。
- コマを使うやり方も良いが、もっとシンプルでスマートに作りたい。
- 色塗りが大変。もっと楽をしたい(棚板は塗らないでいいだろう)。
シン・カセットテープ棚 Rev.3.0
前回まで4mmのシナ合板を使用。構造も作るのも大変だったので、もっとシンプルでスマートに!"Napa Valley"のカセットテープ棚に近づけたい。シンプル・イズ・ベスト。トリマーを使うことで「溝」が掘れるようになったので、枠を作り溝を掘り、そこに薄いベニア板などで棚板をはめ込むコンセプトで進めます。枠板は9mm厚の天然木にして色は薄い茶色 or ナチュラル系にする(前回は思いのほか濃い色になった)。
あーでもない、こーでもないとメモを書く時間は楽しいものです。iPad+Apple Pencilで色々と考えること数ヶ月。その中から2タイプを作成することにしました。Type-Aは棚板ありバージョン。Type-Bは棚板はない代わりに、カセットテープを両端で引っ掛ける形に。
実例とともに説明しますと、Type-Aは以下のように幅・深さ3mmの溝に棚板をはめ込む形式。棚板は枠板の内寸+4mmにして2mm溝に差し込まれ、片側1mmの余裕があるようにする。板厚は3mmの溝に対して2.5mmにすることで少し余裕がある感じ。ここはきっちり作るより少々遊びがあった方が加工に誤差がのった時もリカバリ可能。棚板は縦横ともにはめ込むだけでボンドでの固定はしません。
Type-Bは同じく3mmの幅・深さの溝に、3mm×10mm×62mmの棒?を埋め込んでいきます。Type-Aと違い、ピッチリ3mmで押し込んではめ込む感じ。溝にボンドを入れて固定。長さ62mmにして引っ掛ける部分が両方7mm出るので、一般的なケースに入っているカセットテープは十分引っかかります。
作り方①:溝を掘る
板は業者に切ってもらう方が無難。切ってもらった板にトリマーで溝を掘っていきます。
Youtubeなどでトリマーの使い方動画を見ると、「トリマーテーブル」なるものを作成するのが良さそう。しかし、汎用的過ぎて今回の用途には向かなそう。今回、棚板や裏板をはめ込む溝が彫りたいので必要な技術は以下の2つ。
- 「溝が直角に交差する」
- 「溝を板の途中から掘り進める」
これが、なかなかそのものズバリの動画は見つからない。色々な治具(ジグ)を作って思い通りの形に加工するアイデアは動画でたくさん見たので、それを参考に必要な治具を作ることに。
以下の写真は、20mm間隔で3mmの溝を掘る治具。こんな感じのを数種類作って使い分けていきます。わかりづらいですが、真ん中に枠板を入れて、下から上に向けて溝を一定の長さで掘り込むための治具です。
同じものを作る人はいないと思うので、使えそうなアイデアだけ書いておきます。これを応用すると、直角に彫り込んだり、同じものを複数回再現性よく作ることが可能になります。誤差は0.5mm以下くらいにしたいところ。それは、治具の作成精度とイコールになります。
- 「ダブテールガイド」は必須。トリマーはRYOBIのTR-51を使っているので、RYOBIのリンクを貼りますが、他のメーカーもあると思う。ガイドに反って正確に掘るために必要なオプションツールです。
- 基本は、木でガイドを作って、ダブテールガイドにそれを沿わせます。
- 基準を作ってそこに揃えていくようにしないと、誤差が大きくのってきます。左右、上下で同じ誤差がのるのはいいのですが、違う誤差がのると見た目に大きく影響が出ます。
- 途中から掘るときには斜めに刀を入れていきます。斜めに刃を入れるためにもガイドを作ると便利。
以上を踏まえて、例として棚板に切り込みを入れるやり方を図示しておきます(手書きですいません)。「トリマーを斜めに入れてガイドに沿って動かし、戻して再度斜めに刃を抜く」というやり方です。治具を正確に作ることができれば、正確な加工が可能です。
棚板は、試作時に切り欠きがないと取り出しづらいことがわかったので、こんな感じで。トリマーのストレートビットの形状から端は丸くなるので、その特性を活かして切り欠きは6mmのビットを使って大きめのアールにしました。なんとなく、デザイン的にもGood(出来上がりが団地っぽくなる)。
枠板もこんな風に溝を掘ります。縦は裏板をはめ込むためのもの。横は棚板をはめ込むためのもの。深さは3mm。3mmのビットを使っています。ここを正確に掘らないと、歪な形の棚になりますが、前述の通り棚板、裏板ともに2.5mmを使うので、0.5mmくらいは問題なし。
失敗しないコツは、「しっかり固定する」。固定しないで動いてしまうと、こんな感じで失敗します(たくさん失敗しました)。トリマーは高速回転して材料を削るので、材料を動かそうという力も強いです。掘っている途中で材料が動くと、下のように失敗します。
作り方②:組み立て
溝を掘ったら後は組み立て。以下はType-Aの場合の材料です。枠板、棚板、裏板。前回作成した棚に比べると、格段に部品点数も減り、シンプルで良いです。
Type-A, Type-Bともに同じ組み立て手順ですが、Type-Aは棚板を挟むため若干めんどくさいです。Type-Bは縦の板をつけるだけです。
Type-A 組み立て手順
- 枠板内側の塗装(組み上げた後、塗れないため)。
- 枠板(上)に枠板(左右)を接着していく。枠板(左)→棚板をはめ込む→枠板(右)の順番で。
- 裏板をはめ込んで枠板(下)を接着する。
- 外側の塗装をして完成。
Type-B組み立て手順
- 枠板にカセットテープを引っ掛ける部分の棒を埋め込んでいきます。
- 枠板内側の塗装(組み上げた後、塗れないため)。1.で埋め込んだ引っ掛かり部分があるため、塗りづらいです。
- 枠板(上)に枠板(左右、縦)を接着していく。縦板は大入り継ぎで凹みに差し込む。
- 裏板をはめ込んで枠板(下)を接着する。
- 外側の塗装をして完成。
補足
Type-Aの棚板は互い違いにはめ込む方式。縦の板が前面に来るようにする(使うとき、横の板はカセットテープで隠れて見えないが、縦の板は見えるため)。よくある手法ですが、みんなの憧れのレコード棚「マルゲリータ」を参考にしました。
塗装は今回もWATCOオイル (ミディアムウォルナット)とWATCOワックス(ナチュラル白)を使用。棚板はMDFだと色が塗れない(こともないが、塗らない)ため、外枠だけで超簡単。AmazonでWATCOオイルのナチュラルを買おうとして間違って「WATCOワックス ナチュラル (白)」を買ってしまい、返品もできずに使うことに(しかも1L買った)。結果オーライ、同じように使えて木目も綺麗に出るのでよかった。
木工用ボンドがはみ出すと塗料が綺麗に塗れないので、マスキングテープを貼ってはみ出しを防止。はみ出したら濡れたタオルで拭き取ります。木工用ボンドのみで接着のため、ハタ金やクランプを使ってガッツリ固定します。12〜24時間放置。
試作
前述の作り方で作成しますが、いきなり大きいのを作って失敗するのも困るので、トリマーの練習がてら棚を試作。最終形に向けてフィードバックします。試作として5個のカセットテープ棚を作成しました。大きさは全て同じ、2×6の12本入るタイプ。
ラック | タイプ | 色 | 木材 | サイズ [mm] | 重さ |
---|---|---|---|---|---|
試作1号 (206A) | 棚切り欠きなし | NA | 檜+ラワン | 154×249×90 | 450 g |
試作2号 (206B) | 棚なし | NA | 檜 | 154×258×90 | 390 g |
試作3号 (206A) | 試作1号の色違い | MW | 檜+ラワン | 154×248×90 | 450 g |
試作4号 (206A) | 棚切り欠きあり | NW | 檜+ラワン | 154×248×90 | 430 g |
試作5号 (206A) | 棚切り欠きあり、米栂・MDFに変更 | MW | 米栂+MDF | 154×248×90 | 520 g |
【試作1号機】棚板に切り欠きがないタイプはこんな感じ。棚板の木材はラワン合板。作って使って分かる、このままだと取り出しづらい。切り欠きが必要そうだ。枠板のサイズを1mm間違えたが、見た目にはあまり差は見えなかった。
【試作2号機】棚板なしバージョン。これはいきなりうまくできたが、真ん中の縦板を付けるのが難しかった(上下で位置を合わせて接着することが)。正確に且つ強度と見た目も増すために大入れ継ぎにチャレンジ。端板で何度か練習をしてなんとなくそれ風にできるようになった。
【試作3号機】試作1号機の色をミディアムウォルナット (MW)に変更したもの。アンティークぽくなってなかなか良い。木の色と木目を活かしたナチュラル (NA)と、このミディアムウォルナット (NW)の2色は迷うところ。やはり、棚板に切り欠きがないのは取り出しづらい。
【試作4号機】切り欠きを追加したバージョン。非常に取り出しやすくなった。一番上は、上に押さえつけて滑らせると取り出しやすい(一番下は、下に押さえつけて滑らせる)。試作4号機はラワン合板で棚板を作っているが、トリマーの加工時に欠けたところもあった。棚板はラワン合板ではない方が良さそう。
【試作5号機】試作5号機は檜ではなく米栂・MDFに木材を変更。MDFは木の粉を圧縮して固めている素材のため加工が非常にしやすい。米栂は集積材のため反りがあまりない。檜より重いのが難点なのとコストが少し高くなる。檜にするかどうか迷っていたら近所のDIYショップから米栂は姿を消したので、この試作5号機だけが幻の素材変更バージョン。
以上、試作で分かったことまとめ。この結果を元に、30本入る完成形(カセットテープ棚 Rev.3.0)を作成していきます。
- 試作1,3号機は棚板に切り欠きがないので取り出しづらかった。これを試作4,5号機で改善。作業工程は増えたが使いやすくなった。デザイン的にもGood。
- 試作2号機は棚板なしタイプ。変則的なカセットは置けないが縦置きも可能。大入り継ぎではめ込むようにしたほうが強度と作成時の位置合わせにも好都合。
- ラワンはルーターで加工すると割れるのと、反っているものがあるためMDFに変更。MDFの方がきれいに加工できる。
- 檜は天然木なので年輪に従って反る。とはいえ、溝を掘るのと木目を出したいのでシナ合板は使いたくない。集積材の方が反らないで良い。比重が重いが米栂は反りもほとんどなくてよかったが入手が難しくなった。入手のし易さから檜でいく。
完成形 Rev.3.0
試作結果を踏まえ、30本入るカセットテープ棚を2種類作りました。これが現段階での完成形。これくらいのサイズが実用的かも。最近、カセットテープでリリースしているアーティストを聴き出したり、ユニークで面白いレーベル・バンドも多いしでカセットテープ買い始めた人が使うイメージ(30本じゃ、すぐに足りなくなると思うのでお気に入りを入れる)。
ラック | タイプ | 色 | 木材 | サイズ [mm] | 重さ |
---|---|---|---|---|---|
Type-A (310A) | 棚あり、切り欠きあり | NA | 檜+MDF | 245×363×90 | 1,061 g |
Type-B (310B) | 棚なし | MW | 檜 | 245×372×90 | 812 g |
Type-A
Type-Aは棚板ありバージョン。棚板はMDF 2.5mm厚、枠板は檜の9mm厚。横の枠板の四隅を3mm掘り込んで縦の枠板をはめています(写真だとわかりづらいですが)。強度がこの方が出るかなと。Type-Bで練習した大入り継ぎのやり方を使いました。
何度見てみも等間隔で並ぶ仕切りは美しい(自画自賛)。切り欠きも規則的に並ぶと、少し団地っぽくてデザイン的にも良い。大きくなると、組み立て時に棚板を入れる難易度が上がっていきますが、カチッとハマると達成感があります。
裏はこんな感じ。裏板をはめ込んでます。背面から3mmのところに3mmの溝を掘っています。後ろに板を入れることで強度も増しそうですが、重さも増しています。
完成の図。断然、2×6マスの試作機より見た目がいいです。一見わかりませんが、誤差が0.5〜1.0mm弱あります。これくらいだと言われないと気づかないレベルかも。今回、Type-AはWATCOワックスのナチュラル(白)で仕上げました。触り心地も良いです。
カセットテープを30本入れるとこんな感じ。5/4みどりの日のために緑色のカセットテープを引っ張り出したので、白と赤(比較的多い)を足して、イタリアの国旗風。カセットテープは、113mm×20mmの枠の中に入るものであれば入れられます。
Type-B
Type-Bは棚板なしバージョン。試作結果からのフィードバックで、枠板の縦板は大入り継ぎ風で。正確なやり方かわかりませんが、板の厚さ9mmの溝を3mm掘り込み、そこに縦板をはめ込む。きっちり入るので気持ちいい。以下の写真は枠の色を塗る前なのでわかりやすいかと思います。
仮組みした時の写真。カセットテープの保持の仕方がわかるかと。中の2枚の枠板(縦)は、両面に掘り込みを3mm入れるので、あまり掘り込みすぎると強度不足になるので心持ち3mm弱くらいで掘っています。裏板も3分割してはめ込みます。
完成の図。大入り継ぎをしたおかげで、枠板(縦)の位置もバッチリです。今回、Type-BはWATCOオイルのミディアムウォルナット仕上げ。 写真が背景と同色でわかりづらいですが、光の当たり方で濃くなったり薄くなったり、なかなか良い色です。むらっぽく見えるところがまたアンティークっぽくも。
カセットテープを30本入れてみるとこんな感じ。青・白・赤、横置きでフランスの国旗。薄型のカセットテープも問題なしです。Type-Bは横幅がType-Aより1mm短い112mmで作っています(今考えると一緒にしておいた方がよかった)。
ちょっと取り出しずらくはなりますが、縦置きも可能。縦で置くなら、横置きで引っ掛ける板は邪魔でしかないかも(本数入らないし)。この場合、オランダの国旗。
まとめ
今回、トリマーを使って"Napa Valley"に近づけたと思うし、自分の好みとしてはデザイン的も実用的にもだいぶいい線いったかなと思います。個人的には満足しました。これが最終形と言えます。同じやり方で、次は50本収納くらいの棚を作成しようと思います。治具の都合上、50本くらいの大きさが限界になります。
ちなみに、今回作成した30本入る棚の材料費は2,000円くらいかなと思います(治具、トリマーとかノコギリとかの設備は含まず)。作業時間は今のやり方だと10h/棚くらい。工期は最短で4日くらい(ボンドの固まる待ち時間、塗装が乾く待ち時間があるため)。時給1,000円計算で原価12,000円か...。
1年前の結論が「アンティークショップで売っている1万円強の棚は安い(人件費を考えると)」と書いてて、今回も同じ結論となりそうです。カセットテープ棚作成業で生計を立てるのは難しそう。クビにならぬよう、真面目に社畜として働きます。
ps. 試作品含め、たくさん作ってしまい邪魔なので(自分では使わない)、コロナ禍が過ぎ去りまたイベントができる日が来たら、こっそりどこかのイベントの物販で売らせてもらうかも。モノを見てもらって、この値段でこの出来ならまぁいいかと思う人いたら、是非、持ち帰っていただきご活用いただければ幸いです。その際は、よろしくお願いいたします。早く、そんな日が来ることを今は祈るばかりです。